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長沼町の人 1

坪井 秀貴さん、紀子さん

Tsuboi Hidetaka,Noriko

秀貴さんは岡山県倉敷市、紀子さんは北海道苫小牧市出身。京都で大学在学中に出会います。卒業後はともに就職しますが、5年ほど経った頃に秀貴さんが「農業をやりたい」と打ち明け、夫妻で仕事を辞めて北海道へ。2年間の研修を経て2014年春に就農しました。

「北海道で農業をやってみたい」という夢を実現

敷地内に立ち並ぶビニールハウスは15棟。主力商品のきゅうりは一日5,000~8,000本を収穫するといいます。坪井さんの農業が軌道に乗り始めたのは、長沼で先に農業を始めていた先輩農家のアドバイスに真摯に耳を傾け、実行してきたからでしょう。誠実さと行動力が坪井夫妻の強みです。
 
「北海道で農業をやってみたい」という秀貴さんが最初にインターネットで探し当てたのは、長沼町内で10数年前に新規就農をした押谷農園。「ほかの農家が休んでいるときに働きなさい」。押谷さんはいつだって甘い話はしない。2年間の研修で、2人は押谷さんの教えを素直に吸収していきました。ハウスを年間3~4棟建てること、国の就農支援金のリミットである5年以内に経営を安定させること。実際に坪井さんは就農1年目に4棟、2年目に5棟、3年目に6棟、計15棟のハウスを建てたそうです。

長沼の人と子育て制度に助けられてのきゅうり栽培

主力商品のきゅうりは元々作る予定はなかったもの。「新規就農者は収益性が高いきゅうりに取り組んだほうがいい」。そう教えてくれたのは2人が「お母さん」と慕う、町内の農家10軒を取りまとめるグループのリーダーでした。ただ、1日8,000本のきゅうりを出荷するには、夫婦2人の力だけでは到底間に合わないそう。就農して辛かったことを紀子さんに尋ねると、きゅうりの収穫と子育ての両立をあげて「体力も根性もあるほうだと思っていたけれど、さすがに疲れてしまった」と振り返ります。

きゅうりの収穫は朝が早い。朝4時半に起きて1回目の収穫、家に戻って子どもたちを起こして、朝食を食べさせて保育所に車で送り、選別作業を経て、2回目の収穫、子どもの迎え、夕食という体力的にも厳しいスケジュール。そんな中で活躍してくれているのが、紀子さんが子育て支援センターで知り合った友人たち。きゅうりの選別バイトに来てくれている同世代の女性が5人いるそう。「移住したばかりの頃、知り合いがいないので支援センターに通い詰めたんです。そこからつながって」と紀子さん。支援センター、保育所など長沼の子育て環境に助けられながらの毎日なのだとか。熱が出たり、具合が悪くなったときは一日108円で町内の小児科で預かってもらえるシステムもあり助かっているそう。

夢はゲストハウスを兼ねた家を建てること

現在家族5人が生活しているのは築50年の中古住宅。就農当初、家はボロボロ、敷地内は木や笹やぶだらけで、紀子さんは「こんなところに住めない!」と泣いたそう。結局、家は秀貴さんが自らの手でフルリフォーム。ゲストハウスを兼ねた家を建てることが将来の夢だそう。「僕は無理を言って農業をやりたいという夢を叶えさせてもらったから。次は妻の番です」という秀貴さん。子どもが小学校を卒業するまでに、と期限を教えてくれたが、2人なら案外早く実現させてしまうかもしれない。

長沼には農業を始めたいという人がやってくる。坪井ファームにも以前、新規就農を夢見る大阪の青年がアルバイトに来ていました。長沼には人が集まってくる。これは度量の大きい先駆者たちと根性のある後輩たちの「本気」から生まれたものなのでしょう。